期待を集めて本質を隠すスパイのような人生
期待されるということは
わたしという存在の本質を
この世に1mmも晒さずに居られるということだ
とても安泰なイリュージョンの世界である
永遠にわたしという存在の本質に
焦点が合わないという約束をするということだ
彼らはわたしの姿に
自分の期待する幻想を薄くヴェールすることから始める
薄く、というところがポイントだ
彼らが幻想のヴェールを想起することができるよう
わたしは暗に彼らの期待を汲み取りながら
本質の音を立てずに生きているフリをする
それはとても現実的であり
ある意味とても情緒的である
その期待とは時に
仕事の成果であったり
礼儀正しい作法であったり
理想の相手であったり
相手の傲慢にずっと気付かない人間であったりする
わたしはあらゆる期待に対して、
特にYesともNoとも答えずに
曖昧な表情で静かにヴェールを纏っていく
否、持ちかけられると言っては
他責的すぎるかもしれない
何故ならそれらすべてはわたしの中にあるものであり
確かにそれはわたしの延長線上にあるものだからだ
決して相手が好き勝手描いた幻想を
わたしの上になすりつけているわけではない
わたしの延長線上のどこかを見据えているだけなのだ
なんなら、
交渉を持ちかけるのはいつもわたしの方である
なぜなら、
これがわたしの1番得意な分野であるからだ
わたし自身が
期待という幻想に纏われることの安心を渇望していると
深くわかっているからなのである
深い孤独の中に堕ちながら
いのちに期待されるということは
ひと時の安寧であり、
いのちへの奉仕でもあるのだ
期待に応えるということは
驚くほど簡単である
わたしは彼らに貢献しようと奔走し、
まるで従順で純粋な人間であるかのように
一生懸命に行動したりする
そこである意味の一体感や繋がりを感じたりする
それはわたしにとって
ある種の特別な安らぎだ
仲間に入れてもらえているような
同じ種族だとチームの中にいるような
幻想の中で体温を感じるような
まるでわたしが生きていてもいいのではないかと
錯覚してしまうような安らぎを垣間見てしまうのだ
これがまたいけない
わたしという存在を
また期待という幻想のヴェール越しに見据えてくれないかと
わたし自身もまた期待してしまう輪廻でもあるからだ
さて、ここからが問題となる
期待を出し続けることで
彼らはだんだんわたしを薄い仲間意識だけでなく
他に替えのきかない部品であるとみなし始める
もしかしたらこれは、
確かに価値のある特別な宝石なのではないか、
このチームに必要不可欠な存在なのではないか、
と思うようになったりするのだ
これは、
わたしにとって大問題である
なぜなら、
それはわたしではないのだから
それはわたしの延長線上が作り出した
永遠のイリュージョンでしかない
彼らとはもう
永遠に本質に焦点が合わないという約束をしてしまっているのだ
その心はわたしに向けられたものではないのだ
彼らが信頼や安心、
愛と呼ぶものに近い感情を抱きはじめたとき、
わたしはこのイリュージョンの内側への危機を感じ
至極苦しい恐怖と孤独が渦巻く深い闇の中に突き落とされる
イリュージョンは機能を保てなくなり
わたしの心身は激しく疲弊し、
黒く染まり、息が詰まっていく
そもそも期待されることを許可する時点で、
その相手と本質的な触れ合いをすることは
永遠に不可能だとわかっているはずなのである
それを理解していても、
彼らの純粋な喜びを感じてしまうと
わたしは果てしなく、酷く深く、傷つく
彼らが仲間であると錯覚するような幻想を抱いたのなら
わたしはまるでスパイかペテン師ではないか
自分から交渉を持ちかけておいて
大変自虐的であるが、
それほど孤独の中はつらいということだろう
確実に崩壊することが決定しているイリュージョンの中、
ほんのひと時でも安らぎを得られたかのような幻想を
何千回、何億回と重ねても
それでもなお愛が恋しい
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追伸
どうかわたしがこれから何百回と
期待というイリュージョンであなたを静かに誘っても、
そこに興味を示さないでください
そこにあなたとわたしが出会う世界線はないのです
わたしという孤独の中に期待という言葉は要らないのです
わたしの甘えが尽きることなく
あらん限りの幻想を導いても
それらを掃き捨て
決して騙されることなく
ただそこに存在していてください
きっと
わたしの悲しく弱く情けない
堕ちきった姿と巡り会うことでしょう
わたしはただそれだけを、
あなたに、
つまりわたしに、「期待」しているのです